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  • 【スペシャル対談】バルデスピノ・イグナシオ氏 ×シェリー委員会・明比淑子先生

シェリー対談

Interview

マッカランにも樽を供給するスペインの老舗シェリーボデガ「バルデスピノ」。 その輸出部長兼グローバルブランドアンバサダー・イグナシオ氏がこのたび来日し、シェリー委員会日本代表・明比淑子先生とシェリーの歴史、哲学、そして日本市場への想いを語りました。
歴史と伝統を受け継ぐ造り手と、日本における第一人者。それぞれの視点が交差することで、シェリーの本質と未来像がより鮮明に浮かび上がる貴重な機会となりました。

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対談者プロフィール

イグナシオ・ロペス・デ・カリソサ(写真左)

スペイン・ヘレスの伝統を受け継ぐ名門シェリーボデガ「バルデスピノ」の輸出部長兼グローバルブランドアンバサダーを務める 。 世界各地を巡りながら、数世紀にわたるシェリーの文化と哲学を伝える伝道師であり、その知識と情熱は業界内外から高い評価を受けている。

明比 淑子(写真右)

30年以上にわたりスペイン全土のワイン産地を取材。ワインライター、セミナー講師、イベント主催などを通じてスペインワインの普及に従事する。主著に『シェリー、ポート、マデイラの本』(小学館)。シェリー原産地呼称統制委員会およびシェリー委員会日本代表を務める。スペインワインのプロモーション事業を展開する株式会社アケヒを設立し、取締役として活動。

対談内容

司会者(以下司):本日は、よろしくおねがいします。
シェリーはワインとは少し違う存在ですよね。 中には「難しそう」「そもそも何なのかよく分からない」と感じている消費者も多いと思います。そういう人たちをシェリーの世界に導くためのヒントはありますか? 

イグナシオ・ロペス・デ・カリソサ(以下イ):はい。実際、私たちは他の市場でも、新しい消費者をシェリーの世界に導くさまざまな方法を見てきました。その一つが、同じ地域で造られるスティルワイン(酒精強化する前段階のワイン)を通じて紹介する方法です。もちろん、それがシェリーの代替になるという意味ではありません。そうではなく、この地域で造られるワインの幅広さを知ってもらうためです。そして、その中心にある主要品種が パロミノです。例えば、そのスティルワインを味わってみると、シングルヴィンヤードのシェリーと共通点を感じることができます。 同じブドウから造られているわけですからね。 これは、新しい消費者を引きつける一つの方法だと思います。 そして、もう一つ重要なことがあります。

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1.シェリーの多様性

イ:それは、シェリーの多様性です。 シェリーの大きな特徴は、スタイルの幅広さです。 例えば、マンサニージャからPXまで、非常に多くのスタイルがあります。 マンサニージャは、おそらく世界で最もドライなワインの一つです。 一方で、PXは世界で最も甘いワインの一つです。 そしてその間には、数えきれないほどの香りや味わいの違いがあります。 だから私たちは消費者にこう言っています。
「必ず、あなたの味覚に合うシェリーがあります。」
甘い味が好きな人もいますよね。そういう人には • モスカテル • クリームシェリー • ミディアムスタイル • PX などを紹介することができます。そして多くの場合、そこから徐々にドライなスタイルへと興味が広がっていきます。逆のケースもあります。フィノが好きな人に甘口を勧めると、最初は「甘いワインは好きじゃない」と言うこともあります。でも、例えば非常に品質の高い甘口ワインを飲んでもらうと、「これは甘いけれど、エレガントで複雑だ」と驚くことがよくあります。本当に素晴らしい体験になります。

2.シェリーを広める3つの方法

イ:ですから、シェリーを広めるための方法は大きく三つあると思います。一つ目はスティルワインです。シェリーへの入口として、まず同じ品種で造られたワインを知ってもらうこと。二つ目は 教育です。シェリーには多様性があるということを理解してもらう。 そしてそれを ガストロノミー(料理)と結びつけることです。シェリーは料理と非常によく合うワインだからです。三つ目は スピリッツやカクテルに興味がある人たちを取り込むことです。そういう人たちに、カクテルの材料としてシェリーを紹介する。 シェリーはカクテルにおいても非常に優れた材料です。

3.日本のバー文化

明比 淑子(以下明):シェリーを使ったカクテル「バンブー」が考案されたのも日本のバーですね。バーテンダーの方々は、シェリーの入り口を作ってくれる存在です。

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4.シェリーを広げる難しさ

明:ただ、シェリーを説明するには時間と忍耐が必要ですね。日本ではシェリーの資格試験などもあり、成功している部分もあります。多くのプロフェッショナルが興味を持って勉強しています。彼らはシェリーが大好きです。でも、その世界の中に留まってしまうこともあります。日本には • シェリーバー • スペインレストラン があります。多くのブランドが揃っています。でも、その世界の外にはあまり広がっていません。今、私たちが考えているのは「どうやってこの世界の外に広げるか」ということです。

5.ヨーロッパのシェリー事情

イ:スペインでも似たような状況があります。ヘレスの地域では、シェリーを飲むことは普通です。バーでフィノやアモンティリャードを注文するのも当たり前です。でもスペインの他の地域では、必ずしもそうではありません。10〜15年前にマドリードに行っていたら、 シェリーを見つけるのはとても難しかったでしょう。おそらく数軒の店にしか無かったと思います。でも今は違います。ガストロノミーレストランやワインバー、タパスバーなどでも シェリーを扱う店が徐々に増えています。

6.シェリーを「家族」に例えて説明

イ:「例えば、シェリーを紹介する時にこういう説明の仕方もあります。シェリーは 家族のようなものだ、と。
• 赤ちゃんのような若いワイン → スティルワイン
• ティーンエイジャー → フィノ、マンサニージャ
• 紳士 → アモンティリャード
• 年齢を重ねた成熟したワイン → オロロソ
それぞれに個性があります。このストーリーと一緒に紹介すると、とても面白いと思います。

7.消費者世代交代の問題

イ: 世界的に見ても、世代の問題があります。シェリーを飲んでいた古い世代の人々がいなくなっています。つまり、消費者を失っているわけです。

明:日本では「古い」というイメージはそれほどないかもしれません。ただ、単にシェリーを知らないだけなのだと思います。

イ:日本はそうかもしれませんね。ただヨーロッパ、特に • イギリス • ドイツ • オランダ では、シェリーは「埃をかぶった古いワイン」というイメージを持たれることがあります。

8.新しいターゲット世代

イ:一方で、新しい世代があります。18歳や20歳という意味ではありません。25歳から45歳くらいの世代です。彼らは • 食に興味があり • ワインを発見している世代です。もちろん巨大な市場ではありませんが、重要なターゲットです。彼らは毎日ワインを飲むわけではありません。でもレストランに行けばワインを注文します。問題はこうです。もし彼らが行くレストランにシェリーが無かったら、どうやって飲んでもらうのでしょうか?これは時間のかかるプロセスです。必要なのは • 投資 • 教育 • トレーニング です。

9.シェリーの価値

イ:専門家の間ではよく言われることですが、 シェリーはおそらく 世界で最もコストパフォーマンスの高いワインです。例えば他の産地では 10年熟成のワインはかなり高価になります。しかしシェリーでは • 5〜6年熟成 • 10年熟成でも比較的手頃な価格です。さらに25年熟成などでも、その価値は非常に高いのです。

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10.和食との相性

イ:和食はシェリーと非常によく合います。和食には • 旨味 • 醤油 • 海産物 があります。日本は島国で、歴史的にも海の食文化があります。こうした味はシェリーとよく合います。

明:例えばラーメンでもそうですよね。

イ:そう、ラーメンも良いですね。肉やキノコの旨味が強いラーメンなら、 アモンティリャードがとてもよく合います。ラーメンのスープに少し加えるだけでも、 風味がとても良くなります。コンソメやブイヨンを使った料理にスプーン1さじのアモンティリャードを加えると、 驚くほど美味しくなるんですよ。

11.シェリーの楽しみ方

イ:シェリーを飲むときに難しく考えないでほしいと思っています。「シェリーグラスが必要」と思う人もいますが、そんな必要はありません。私自身も普段はワイングラスで飲んでいます。温度も神経質になる必要はありません。シェリーはワインと違って 開栓後も2週間くらいは冷蔵庫で美味しく飲めます。夏はよく冷やして、冬は料理に合わせて室温でもいい。料理や季節に合わせて楽しめばいいのです。大事なのは難しく考えすぎないことです。自分の好きなスタイルで、気軽に楽しんでください。

12.バルデスピノの哲学

司:バルデスピノの哲学についても教えてください。

イ:私たちの哲学を説明するなら、まずオリジン(起源)です。その象徴が マチャルヌード・アルトの畑です。私たちは1870年代から、この畑のブドウでワインを造り続けています。

明:かなり長い歴史ですね。

イ:もう一つ重要なことがあります。多くのボデガは 既存のソレラを買い取ってスタートします。しかし私たちは違います。 1894年と1897年に自分たちでソレラを組み立てました。• フィノ イノセンテ • アモンティリャード ティオ・ディエゴ のソレラです。それ以来、今日まで継ぎ足して守り続けています。

明:つまり正真正銘、ピュアなソレラということですね。それは、バルデスピノを語る上で本当に意味があることだと思います。

イ:その通りです。これはとても重要なポイントで、 私たちは畑からソレラまで、すべて自分たちの歴史の中で作り上げてきました。• 畑 • ブドウ • ワイン • ソレラ すべてが一つのストーリーなのです。

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13.マチャルヌード・アルト

明:畑には十字架のモニュメントがありますよね。そこから畑全体を見下ろすことができる。象徴的な場所ですね。

イ:そうです。この地域は昔、海でした。土壌には化石や貝殻が多く含まれています。そのため アルバリサという石灰質の土壌が形成されています。この土壌は水分も少なく、ブドウの生育も簡単なことではなかったでしょう。しかし、ブドウの樹が苦労する土地というのは、往々にして 非常に個性のあるワインを生み出します。だからこそ、この畑は特別なのです。

14.ウイスキー業界との関係性

司:バルデスピノはスコットランドのウイスキー業界とも関係がありますよね。

イ:はい。実は 2023年からスコットランドのウイスキー会社エドリントンと新しいパートナーシップを結んでいます。エドリントンは マッカランなどのブランドを持つ会社で、ウイスキーの熟成にシェリー樽を多く使用しています。この関係は単に樽を供給するというだけではありません。 私たちは一緒に仕事をしていて、両社の専門チームが互いに補い合いながら、マッカランのシェリー樽のためのシーズニング用のシェリーを造っています。
ウイスキーの熟成において、シェリー樽は非常に重要な役割を持っています。しかし、その樽の品質は、もともとシェリーを造るボデガの仕事によって決まります。つまり、良いシェリーが造られて初めて、良いシェリー樽が生まれるのです。

明:シェリー樽はウイスキーの世界でも非常に重要な存在ですよね。

イ:生産者 そうですね。実は多くの人が誤解しているのですが、シェリー樽というのは単に樽を作るだけではありません。まずシェリーを造る必要があります。シェリーが熟成し、その後に樽が次の役割を持つのです。つまり私たちにとっては • 畑 • ブドウ • ワイン • ソレラ • 樽 すべてが一つの流れとしてつながっています。
だからこそ私たちは、マチャルヌード・アルトの畑からソレラまで、自分たちの歴史の中で守り続けてきました。そしてその結果として、シェリーは酒精強化ワインとしてだけでなく、ウイスキーを含めた世界の酒文化とも深くつながっているのです。 

司:最後に日本の皆さんへメッセージをお願いします。

イ:とてもシンプルです。家に1本、シェリーを置いてください。冷蔵庫に入れておけばしばらく持ちます。そして料理と一緒に楽しんでください。日本の料理は • 塩味 • 甘味 • 旨味 があり、シェリーととてもよく合います。ぜひ試してみてください。

司:本日は、ありがとうございました。